案の定、山の中を歩くこと三十分、虫などは一切いなかった。虫はいなかったが、代わりに子猫がいた。捨て猫なのだ。ニャアニャアとかわいい声に娘も息子も惹きつけられて一歩も動かない。更には抱きかかえて「連れて帰る」と言い始めた。
その上悪いことに、ウォーキングで通りかかるおばさんが「あら、この猫まだいたのね。二三日前からなのよね。誰か車で来て捨てていったのね。かわいそうに」、おじさんが「こいつもこのままではカラスにねらわれるかもしれんのう」などと、我々が置き去りにすれば「子猫に未来はない」的な状況を作ってくれる。
目の前に救わねばならない難民が列を作っているのに、ワクチンと食料は限られた量しかない。そんな状況に直面したNGOの責任者のような気持ちになって、わしは決断した。
「家で飼えない以上、我々はこの子猫をどうすることもできない。どうすることもできない以上、ここにいても仕方がない。この場を離れる」と宣言して、かぶと虫とクワガタの探索を無理やり続行することにした。しかし、30分程度探してみたが、やはり虫は見つからず、元の場所(つまり、猫のいた場所)に帰ることとなった。そこを通らないと帰れないのだから仕方ない。またもや、泣き声がしたらどうしようと心配したが、運の良いことに泣き声はしなかった。子ども達には「あまりのかわいさに、さっきのおばさんが連れて帰ったのかもしれないな」と希望的な観測を口にしたが、実際どうだったのだろうか。あの場に残っていたとして、果たして生きのびることはできるのだろうか、いろいろ気になり、今日の気分は天気同様雨模様であった。
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