2009年1月11日日曜日

病室のベッドから

ブッダは生老病死に向き合うことで出家の意思を固めたというが、その「病」が集うこの病院という空間は様々なことを考えさせてくれる。現在いるのは4人部屋だが、いろいろな人生模様が伺える。
斜め向かいのベッドのAさん(85歳)は両足の手術のため11月から入院しておられる。わしが入室した時からすぐに話しかけてくれ、いろいろなことを教えてくれる親切な人だ。Aさんは入院するときに、排泄もままならない奥さんの介護をどうするのかという問題に直面したようだ。結局は親戚に一時的に面倒をみてもらうということで解決した。自分が退院すれば(まだ3ヶ月先のようだが)、また奥さんの介護をされるようだ。しかし、良い家族親戚関係を構築されているのだろう、頻繁にお子さん、お孫さん、親戚の方が顔を出されている。
検査入院のため、二日だけわしのベッドの隣にいたBさん(推定年齢75歳)は経済的な問題を抱えていたようだ。治療費をさかんに気にし、「国民年金暮らしのわしに医療費7万、8万言われりゃあしんどいわい。これで年に何度も入院しよったらわしら、もう破産じゃけえ」とだみ声で先生に訴えていた。実際に治療に使う薬剤のどれが高いのかも確認していた。治療を受けるのも財布と相談なのだ。
向かいのベッドに一日だけいたCさん(推定年齢80歳)は、自分ではもう排泄のタイミングもわからなくなっていた。家族が付いて来ていたが、Cさんに対する態度は明らかに邪険なものだった。家での介護などでストレスも極まっていたのかもしれないと見受けられた。結局は糞便を垂れ流し状態のため、他の患者に迷惑がかかるということで個室に移された。
その後に入ってきたDさん(推定年齢85歳)は耳が遠いわりに自己主張が強い。目が痛くなるから部屋の蛍光灯を消してくれと言ったかと思うと、手元の白熱灯は点けたりする。読むところはあまり見ていないが枕下には「漱石全集」「司馬遼太郎 アジアの中の日本」などの本が置いてあるので元々はインテリかもしれない。しかし、この人に家族、あるいは見舞いが来るのを一度も見ていない。
その他、突然呼吸が停止して緊急治療を受けた老人もいた(この方は助かったようだ)。
休憩室に行くと、老婆二人がお互いの嫁の悪口を言い合っていたりする。このように病院というところは、超高齢化のため「病」に加えて「老」の在り様も見ることができるのだ。
わしのように、追加費用も気にせず「一番高い部屋にしてくれ」と言えるのは言えるのだが、閉所感覚が嫌だという理由で相部屋におり、若くて動きもよく、毎日妻と子供が見舞いに来て頭を洗ってくれ、好きなだけ本を読み、消灯時間は守らず、おやつやジュースは食べ放題飲み放題で、看護婦さんには軽口ばかり叩き、夜にはセクシャルナースサービスも受け(これはないか。残念)というのは異質な存在なのだ。
しかし、今日まで十四日間の入院生活でいろいろなことを感じたこと、考えたことは確かだ。痛みはあったが、たまに日常という膜が破れるのは良いものだ。ここから何かをつかんで退院したいものだ。

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